はじめに:Makeの自動化が便利なほど、データの扱いが気になる
ノーコードでさまざまなアプリを連携し、日々の繰り返し作業を自動化できる「Make(旧Integromat)」。その強力な機能に魅力を感じながらも、一歩を踏み出せずにいる人は少なくない。理由の多くは、入力した文章やファイル、社内情報がどこでどのように扱われるのかが明確でないことに起因する。
実際、Makeの公式ヘルプやドキュメントを見ても、情報が英語で書かれていることが多く、日本語話者にとってはハードルが高い。さらに、AI連携機能やAIエージェント機能が追加されたことで、単純な自動化だけでなく、入力データが学習に使われる可能性や、第三者へのデータ提供についても心配になる。
この記事では、Makeの公式情報や一般的なクラウドサービスの考え方をもとに、安心して使い始めるための判断材料を整理する。「どこまで情報を渡してよいか」「どう設定すればリスクを下げられるか」といった疑問に答え、個人利用から業務利用まで、状況に合った使い分けができるようになることを目指す。
なお、本記事の内容は2026年6月時点の情報に基づく。各サービスのポリシーは変更される可能性があるため、利用前には必ず公式ページで最新情報を確認してほしい。
Makeで入力データがどう扱われるかを理解するための基本
Makeのシナリオ実行時、データはMakeのサーバーを通過する
Makeは、ユーザーが作成した「シナリオ」と呼ばれる自動化の流れに従って、複数のアプリ間でデータを受け渡す。このとき、データは必ずMakeのサーバーを経由する。例えば、Gmailで受信したメールの内容をGoogleスプレッドシートに書き込むシナリオでは、メール本文や添付ファイルの情報が一時的にMakeのサーバー上で処理されることになる。
公式ドキュメントでは、この処理の詳細について、データの保存期間や暗号化の有無などが明記されている。ただし、これらの情報は英語で提供されていることが多く、内容を正確に把握するには、ブラウザの翻訳機能を活用するか、原文を丁寧に読み解く必要がある。
AI機能を使う場合、外部のAIサービスにデータが送信される
Makeには、ChatGPTやClaude、Geminiといった外部のAIサービスと連携するためのモジュールが用意されている。これらのモジュールを利用すると、シナリオの中でAIにテキストを要約させたり、分類させたり、返信文を生成させたりできる。
しかし、この連携においては、Makeに入力したデータが、さらに外部のAIサービス提供者のサーバーに送信される点を理解しておく必要がある。したがって、データの扱いはMake単体のポリシーだけでなく、連携先のAIサービスのプライバシーポリシーや利用規約にも左右される。
例えば、OpenAIのAPIを利用する場合、送信されたデータはデフォルトではモデルの学習に使用されない(2026年時点の情報)。しかし、個人向けのChatGPTプランとは条件が異なるため、混同しないように注意が必要だ。MakeのAIモジュールを使う際は、各AIサービスの公式ドキュメントで、API経由のデータの取り扱いを必ず確認する習慣をつけたい。
入力前に分けておきたい情報の種類と判断基準
社外に出してはいけない情報の典型例
企業でMakeを利用する場合、まずは「社外に出してはいけない情報」を明確にすることが重要だ。一般的に、以下のような情報は、クラウドサービスを介した自動化の対象から外すか、十分なセキュリティ対策を講じた上で利用を検討する必要がある。
- 顧客の個人情報(氏名、住所、電話番号、メールアドレスなど)
- 従業員の機密情報(給与、評価、健康情報など)
- 取引先との契約内容や未公開の財務情報
- 特許出願前の技術情報や製品設計図
- パスワードやAPIキーなどの認証情報
これらの情報は、万が一漏洩した場合の影響が大きいため、Makeのシナリオに含めることは推奨できない。特に、AIモジュールを使って外部サービスにデータを送信する場合は、さらに慎重になる必要がある。
マスキングや置き換えでリスクを下げられる情報
一方で、完全に利用を諦めるのではなく、一部を加工することでリスクを低減できるケースもある。例えば、以下のような対応が考えられる。
- 顧客名を「顧客A」のようなコードに置き換える
- メールアドレスのドメイン部分だけを残し、ローカル部分を伏せる
- 金額や数量はそのまま使うが、個人を特定できる属性は削除する
- 住所を都道府県レベルに抽象化する
Makeのシナリオ内で、こうした加工を行うモジュールを前段に組み込むことも可能だ。ただし、加工したとしても、情報の組み合わせによって個人が特定される可能性はゼロではない。リスクを完全に排除することは難しいと理解した上で、どこまで許容するかを判断する必要がある。
学習に使われる可能性を考慮する
Make自体が、入力データをAIの学習に利用しているかどうかは、公式ドキュメントで明示されている。しかし、MakeのAIモジュールを経由して外部のAIサービスにデータを渡した場合、そのデータが学習に使われるかどうかは、連携先のサービス次第である。
例えば、OpenAIのAPIでは、2026年時点で、API経由で送信されたデータはモデルの学習に使用されないことが明記されている。しかし、このポリシーは将来変更される可能性がある。また、GoogleのGemini APIやAnthropicのClaude APIでは、それぞれ異なるデータの取り扱いルールが適用される。
したがって、MakeでAI連携を行う際は、シナリオに組み込む前に、各AIサービスの公式ドキュメントで「データの学習利用に関する最新のポリシー」を確認することが欠かせない。
個人利用と業務利用で変わるリスクと設定
個人利用で気をつけるべきポイント
個人でMakeを利用する場合、主に自分のメールやSNS、クラウドストレージ内のデータを扱うことになる。業務利用に比べれば機密性は低いかもしれないが、それでもプライバシーに関わる情報は少なくない。
特に、AIモジュールを使って日記やメモを要約させたり、SNSの投稿内容を分析させたりする際は、自分の考えや行動パターンが外部に蓄積される可能性を意識しておきたい。
また、無料プランでは利用できる機能やオペレーション数に制限があるが、データの扱いに関するポリシーは有料プランと変わらない場合が多い。まずは、Makeのプライバシーポリシーを確認し、自分のデータがどのように扱われるかを理解した上で利用を始めるとよい。
業務利用で必須となる確認事項
企業や組織でMakeを導入する場合は、個人利用よりもはるかに高いレベルの注意が求められる。特に、以下の点は必ず確認しておきたい。
- 社内のセキュリティポリシーや情報管理規程に違反しないか
- 取引先との契約で、データの第三者提供が禁止されていないか
- 業界固有の規制(金融、医療、教育など)に抵触しないか
- Makeのデータ処理場所(リージョン)が、自社のコンプライアンス要件を満たしているか
また、Makeの有料プランでは、チームでの利用を想定した管理機能が提供されている。組織として利用する場合は、管理者アカウントを設定し、メンバーの権限を適切に管理することが望ましい。
さらに、AIモジュールを業務で使う際は、生成された内容の正確性や著作権の問題にも注意が必要だ。AIが出力した文章をそのまま顧客に送信するようなシナリオは、誤情報や不適切な表現が含まれるリスクがあるため、必ず人間が確認するフローを組み込むべきである。
社内ルールに落とし込むための具体的なステップ
利用ガイドラインの作成
組織でMakeを安全に活用するためには、個人の判断に任せるのではなく、明確な利用ガイドラインを定めることが効果的だ。ガイドラインには、以下のような項目を含めるとよい。
- 利用可能なアプリやモジュールの範囲
- 入力してはいけないデータの種類と具体例
- AIモジュールを利用する際の承認プロセス
- シナリオの共有範囲と権限設定
- 定期的な監査やログの確認方法
これらのルールを文書化し、関係者に周知することで、意図しない情報漏洩やコンプライアンス違反を防ぎやすくなる。
リスクレベルに応じたシナリオの分類
すべての自動化を一律に制限するのではなく、扱うデータの機密性に応じてシナリオを分類し、それぞれに適した対策を講じる方法もある。例えば、以下のような区分が考えられる。
| リスクレベル | データの例 | 推奨する利用方法 |
| — | — | — |
| 低 | 公開情報、天気予報、ニュース記事 | 自由に利用してよい |
| 中 | 社内の連絡先、会議の議事録(非公開) | AI要約は可、ただし個人名はマスキング |
| 高 | 顧客情報、契約書、財務データ | 原則としてMakeを利用しない、または専門部署の承認必須 |
この表はあくまで一例であり、実際の分類は組織のポリシーや業界の規制に合わせて調整する必要がある。
教育と定期的な見直し
ルールを作るだけでなく、利用者への教育も欠かせない。特に、AIモジュールを使う際の注意点や、データが外部に送信される仕組みについては、技術に詳しくないメンバーにもわかりやすく説明する必要がある。
また、Makeの機能や外部AIサービスのポリシーは随時更新されるため、定期的に情報を収集し、ガイドラインを見直すサイクルを回すことが望ましい。
使わない方がよいケースと安全に使うための工夫
こういう場面ではMakeの利用を避ける
以下のようなケースでは、Makeの利用を控えるか、より安全な代替手段を検討する必要がある。
- 法律や契約で、データの国外持ち出しが禁止されている場合
- 医療情報やクレジットカード情報など、特に厳格な保護が求められるデータを扱う場合
- シナリオの誤動作が、人の生命や安全に直接影響する可能性がある場合
- 組織として、クラウドサービスの利用そのものが禁止されている場合
これらのケースでは、Makeに限らず、同様のクラウド型自動化ツール全般が適さないことが多い。まずは、社内の情報システム部門や法務部門に相談することを推奨する。
リスクを抑えるための具体的な設定
Makeを利用する際に、以下のような設定や工夫を取り入れることで、リスクを低減できる。
- シナリオ内で扱うデータは必要最小限にする
- データの保存期間を短く設定できる場合は、最小限に留める
- 認証情報は、Makeの「データストア」や「シークレット」機能を使って安全に管理する
- シナリオの実行ログを定期的に確認し、不審な動きがないかチェックする
- AIモジュールを使う際は、プロンプトに個人情報や機密情報を含めない
また、Makeの設定で、シナリオの実行履歴やデータの保持に関するオプションが用意されている場合がある。公式ドキュメントを確認し、自社のポリシーに合った設定にカスタマイズすることが重要だ。
他サービスとの比較で見えるMakeのデータ取り扱い
Zapierやn8nとの違い
Makeとよく比較されるZapierやn8nも、同様にクラウド上でデータを処理する。しかし、データの取り扱いに関するポリシーはサービスごとに異なる。
Zapierは、Makeと同様にデータがサーバーを経由するが、AI機能(Zapier AI)を利用する際は、OpenAIのAPIが使われている。この場合のデータの扱いは、OpenAIのポリシーに依存する。
n8nは、セルフホスティングが可能な点が特徴だ。自社のサーバーでn8nを運用すれば、データが外部のクラウドに送信されることを避けられる。ただし、AIモジュールを使う場合は、結局外部のAIサービスにデータを送信することになるため、その点はMakeやZapierと変わらない。
比較表:データの取り扱いに関する主な違い
| 項目 | Make | Zapier | n8n(セルフホスト) |
| — | — | — | — |
| データの経由 | Makeのクラウドサーバー | Zapierのクラウドサーバー | 自社サーバー(設定による) |
| AIモジュール利用時のデータ送信先 | 連携先AIサービスによる | 連携先AIサービスによる | 連携先AIサービスによる |
| データの保存期間 | 公式ドキュメントで要確認 | 公式ドキュメントで要確認 | 自社で設定可能 |
| セルフホスティングの可否 | 不可 | 不可 | 可 |
この表からもわかるように、データの外部送信を完全に避けたい場合は、セルフホスティングが可能なn8nが選択肢になる。ただし、運用の手間や技術的なハードルを考慮すると、MakeやZapierの利便性を選ぶケースも多い。
AIモジュール利用時のデータ学習に関するQ&A
Q. MakeのAIモジュールを使うと、入力データは必ず外部に送信されますか?
A. はい。MakeのAIモジュールは、ChatGPTやClaude、Geminiなどの外部AIサービスと連携するため、シナリオ内で処理されるデータは、それらのサービスのサーバーに送信されます。
Q. 送信されたデータがAIの学習に使われることはありますか?
A. 利用するAIサービスによって異なります。例えば、OpenAIのAPIでは、2026年時点で送信データは学習に使用されないと明記されています。ただし、ポリシーは変更される可能性があるため、必ず各サービスの公式情報を確認してください。
Q. Make自体が、私のデータを学習に使うことはありますか?
A. Makeのプライバシーポリシーや利用規約に記載されています。2026年時点の公式ドキュメントでは、サービス改善のためのデータ利用について言及されていますが、詳細は英語で提供されています。具体的な内容は、公式ページで最新の情報を確認することをお勧めします。
Q. 無料プランと有料プランで、データの扱いに違いはありますか?
A. 基本的なデータの取り扱いポリシーは、プランによって大きく変わらないことが一般的です。ただし、有料プランではデータの保存期間やサポート体制が異なる場合があるため、公式の料金ページや利用規約を確認してください。
Q. どうしても機密情報をAIに処理させたい場合、何か方法はありますか?
A. 完全に安全とは言えませんが、データを匿名化・マスキングした上で利用する方法があります。また、セルフホスティング可能なn8nと、オンプレミスで動作するAIモデルを組み合わせるといった選択肢も考えられます。ただし、技術的なハードルやコストが高くなる点に注意が必要です。
まとめ:公式情報を起点に、自分の使い方に合った線引きを
Makeは、ビジュアルで直感的に自動化を構築できる強力なツールだが、その利便性の裏側で、データがどのように扱われるかを理解しておくことは欠かせない。特に、AIモジュールを利用する場合は、Makeのポリシーだけでなく、連携先のAIサービスのデータ取り扱いルールまで確認する必要がある。
この記事で紹介した判断基準やリスク低減策は、あくまで一般的な考え方に基づくものであり、すべての組織や状況に当てはまるわけではない。最終的には、Makeの公式ドキュメント、各AIサービスの利用規約、そして自社のセキュリティポリシーを照らし合わせ、自分たちの使い方に合った線引きを行うことが重要だ。
情報の取り扱いに迷ったら、まずは公式情報を確認し、必要に応じて社内の専門部署や外部の専門家に相談することをお勧めする。安心できる範囲を見極め、Makeの自動化を最大限に活用してほしい。

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