はじめに:Make AIを使う前に立ちはだかる「データの扱い」への不安
業務の自動化を進める上で、Make(旧Integromat)は非常に強力なノーコードツールです。GmailやSlack、Googleスプレッドシート、Notionなど、日常的に使うさまざまなアプリを連携させ、面倒なルーティンワークを自動で処理してくれます。しかし、いざ導入を検討する段階で、多くの人が共通の壁にぶつかります。それは「入力したデータはどのように扱われるのか」「社内の機密情報を渡しても安全なのか」という根本的な不安です。
Makeは、シナリオ(自動化の流れ)の中で、ユーザーが設定したアプリ間でデータを受け渡します。この過程で、メールの本文や添付ファイル、顧客情報、社内文書などがMakeのサーバーを経由することになります。そのため、利用規約やプライバシーポリシーを正しく理解せずに使い始めると、意図せず情報漏洩のリスクを負ったり、社内のコンプライアンス違反を引き起こしたりする可能性も否定できません。
この記事では、Makeの公式ヘルプや公開情報を基に、データがどのように処理されるのか、どのような情報を渡すべきでないのか、そして安全に使いこなすための具体的な線引きを整理します。特に、個人利用と業務利用で設定や考え方がどう変わるのか、社内ルールに落とし込む際のポイントまで、実践的な判断材料を提供します。
Make AIで不安になりやすいデータの扱い
Makeを利用する際、多くの人が最初に感じるのは「自分の入力データがAIの学習に使われるのではないか」という懸念です。しかし、Makeの位置づけを正しく理解することが重要です。Makeは、ChatGPTやClaudeのような生成AIそのものではなく、さまざまなアプリやAIサービスをつなぐ自動化プラットフォームです。そのため、データの扱いも「Make自体のポリシー」と「連携先のAIサービスのポリシー」の両方を考慮する必要があります。
Makeがデータを処理する仕組み
Makeで構築したシナリオは、指定されたトリガー(例:Gmailにメールが届いたら)を検知すると、一連のアクションを実行します。このとき、メールの件名や本文、添付ファイルといったデータは、一旦Makeのサーバー上で処理されます。公式ドキュメントによると、Makeは処理に必要なデータのみを一時的に保持し、シナリオの実行が完了すると、そのデータは速やかに削除される仕組みになっています。
ただし、シナリオの実行履歴(Execution Log)には、デバッグやトラブルシューティングのためにデータの一部が残る場合があります。このログの保持期間はプランによって異なり、無料プランでは短く、上位プランではより長期間保存されることがあります。機密性の高いデータを扱う場合は、ログの保持期間と、どのデータが記録されるのかを事前に確認しておく必要があります。
AI連携機能を使う場合の注意点
Makeには、ChatGPTやClaude、Geminiといった外部AIサービスと連携するためのモジュールが用意されています。例えば、受信したメールの内容をChatGPTに要約させ、その結果をSlackに投稿する、といったシナリオが簡単に作れます。この場合、Makeは単なるパイプ役であり、実際にAIがデータを処理するのは連携先のサービスです。したがって、入力データがAIの学習に使われるかどうかは、連携先のAIサービスの利用規約に依存します。
2025年11月時点の情報では、ChatGPTの個人向けプラン(Free/Pro/Max)はデフォルトで会話データがモデルの学習に利用される設定になっています。一方、企業向けプラン(Team/Enterprise)やAPI経由の利用では、データは学習に使用されないと明記されています。MakeからChatGPTをAPI経由で呼び出す場合、この「API利用」に該当するため、通常は学習対象外となりますが、必ずOpenAIの最新ポリシーを確認してください。
同様に、ClaudeやGeminiを利用する場合も、それぞれのサービスが定めるデータの取り扱いを理解し、必要に応じてオプトアウト設定を行うことが大切です。Make自体がAI学習を行うわけではないものの、連携先の選択と設定が、結果的にデータの安全性を左右するという点を押さえておきましょう。
入力前に分けたい情報の種類
「どこまでの情報をMakeに渡してよいのか」を判断するには、扱うデータの種類をあらかじめ分類しておくのが現実的です。企業の情報セキュリティポリシーとも照らし合わせながら、以下のようにレベル分けすると、シナリオ設計時の迷いが減ります。
絶対に渡してはいけない情報
- クレジットカード番号、銀行口座番号、マイナンバーなどの法令で保護された個人情報
- パスワードやAPIキー、アクセストークンなどの認証情報
- 医療記録や健康診断結果などの要配慮個人情報
- 取引先との秘密保持契約(NDA)で保護された情報
これらの情報は、たとえMakeのサーバー上で一時的に処理されるだけでも、漏洩した場合の影響が非常に大きいため、絶対にシナリオ内で扱うべきではありません。もし業務上どうしてもこれらのデータを自動化したい場合は、オンプレミス環境や専用のセキュアなゲートウェイを検討する必要があります。
注意して扱うべき情報
- 顧客の氏名、メールアドレス、電話番号(個人情報保護法の対象)
- 社外秘の売上データや事業計画書
- 従業員の人事評価や給与情報
- 製品の設計図やソースコード
これらの情報は、適切なアクセス制御と暗号化が施された環境であれば、Makeで扱っても差し支えない場合があります。ただし、必ず以下の条件を満たすようにします。
- シナリオの実行ログにこれらのデータが残らないよう、必要に応じてマスキングやログ出力の制限を行う
- 連携するアプリ側でも、適切なアクセス権限が設定されていることを確認する
- 利用するMakeのプランが、必要なセキュリティレベル(データの暗号化、保存場所など)を満たしているか確認する
比較的安全に扱える情報
- 公開済みのプレスリリースやマーケティング資料
- 匿名化された統計データ
- シナリオの動作テスト用のサンプルデータ(個人情報を含まないもの)
- 一般的な問い合わせ内容やテンプレート
これらの情報は、仮に外部に流出しても大きな問題になりにくいため、Makeの自動化に積極的に活用できます。とはいえ、シナリオの共有範囲には気を配り、意図しない人に編集されたり、実行されたりしないよう、チーム設定や権限管理を適切に行いましょう。
個人利用と業務利用で変わる設定
Makeは個人のタスク自動化にも、企業の業務効率化にも使えますが、データの取り扱いに関する意識と設定は、利用シーンによって大きく変える必要があります。
個人利用の場合:まずは学習オプトアウトの確認から
個人でMakeを使い、ChatGPTやClaudeと連携させる場合、最も気をつけたいのは、先述したAIサービスの学習設定です。例えば、OpenAIの個人向けプランでは、デフォルトで会話データが学習に使われるため、プライベートな内容やアイデアを入力すると、それがモデルに吸収される可能性があります。
対策としては、OpenAIのプライバシーポータルから「Do not train on my content」を申請する、またはChatGPTの設定画面で「全ての人のためにモデルを改善する」をオフにすることが有効です。ただし、これらの設定は将来変更される可能性があるため、定期的に最新情報を確認する習慣をつけましょう。
また、Makeの無料プランでは、実行ログの保持期間が短い反面、セキュリティに関するオプションが限られています。個人情報を含むようなシナリオを無料プランで運用するのは避け、少なくともCoreプラン以上を検討するのが無難です。
業務利用の場合:組織としてのルール作りが不可欠
企業でMakeを導入する際は、まず情報システム部門やセキュリティ担当者と連携し、利用ガイドラインを策定することが重要です。特に以下の点を明確にします。
- どのデータをMakeで扱ってよいか(扱ってはいけないか)の分類基準
- 利用が許可されるプラン(Enterpriseプランではより高度なセキュリティ機能が提供される場合がある)
- シナリオ作成者・管理者の権限と承認プロセス
- ログの監査方法と保存期間
- 連携先AIサービスの選定基準と、学習オプトアウトの確認義務
企業向けプラン(Team/Enterprise)では、シングルサインオン(SSO)や監査ログ、データの保存場所の指定など、エンタープライズ向けのセキュリティ機能が利用できます。これらの機能を活用し、社内ポリシーに沿った運用を徹底することが、安全な業務利用の大前提です。
社内ルールに落とし込む時の見方
実際に社内でMakeの利用を推進する場合、現場の担当者が迷わないよう、具体的な判断基準をマニュアル化する必要があります。ここでは、ルール作りの際に検討すべきポイントを整理します。
データの分類と取り扱いルールの明確化
前章で挙げた「情報の種類」をベースに、自社の情報セキュリティポリシーと照らし合わせ、以下のようなマトリクスを作成します。
| データ分類 | 例 | Makeでの利用可否 | 条件 |
| :— | :— | :— | :— |
| 極秘情報 | クレジットカード情報、パスワード | 禁止 | – |
| 社外秘 | 顧客リスト、売上データ | 条件付き可 | Enterpriseプラン利用、ログマスキング、アクセス制限 |
| 社内限り | 社内アナウンス、マニュアル | 可 | チームメンバーのみに共有 |
| 公開情報 | プレスリリース、カタログ | 可 | 特になし |
このような表を社内ポータルなどに掲示し、誰でも参照できるようにしておくと、現場での判断がスムーズになります。
シナリオテンプレートとチェックリストの提供
よくある自動化パターン(例:問い合わせフォームの内容をSlackに通知する)については、あらかじめセキュリティチェック済みのテンプレートを提供するのが効果的です。テンプレートには、渡すデータ項目やログ出力の設定が適切に組み込まれており、利用者は最小限のカスタマイズで安全に使い始められます。
また、新しいシナリオを作成する際のチェックリストを用意します。
- [ ] 扱うデータに「絶対に渡してはいけない情報」が含まれていないか
- [ ] 連携するAIサービスの学習ポリシーを確認し、必要に応じてオプトアウト設定を行ったか
- [ ] シナリオの実行ログに機密情報が出力されない設定になっているか
- [ ] シナリオの共有範囲が適切か(個人のアカウントで作成したシナリオをチーム全体で使っていないか)
- [ ] 利用するプランが、データの重要度に見合ったセキュリティレベルを提供しているか
このチェックリストを埋めることを、シナリオのデプロイ前の必須工程とすることで、うっかりミスを防げます。
定期的な監査と教育
Makeの利用状況は、時間とともに変化します。新しいメンバーが加わったり、業務プロセスが変わったりすることで、当初は安全だったシナリオがリスクを孕むようになることもあります。そのため、最低でも半年に一度は、全シナリオの棚卸しと、利用者向けのセキュリティ教育を実施することが望ましいです。
特に、Makeの機能アップデートや、連携先AIサービスのポリシー変更は、気づかないうちにデータの取り扱いに影響を与える可能性があります。公式のリリースノートやアナウンスを定期的にチェックする担当者を決めておくとよいでしょう。
使わない方がよいケース
どんなに便利なツールでも、利用シーンによってはリスクがメリットを上回る場合があります。以下のようなケースでは、Makeの利用を控えるか、よりセキュアな代替手段を検討すべきです。
極めて高い機密性が要求されるデータを扱う場合
金融機関の顧客資産データや、医療機関の電子カルテ、国防関連の情報など、漏洩した場合に事業継続が危ぶまれるレベルのデータは、パブリッククラウドを経由するMakeでの処理には向きません。このようなケースでは、オンプレミス環境で動作する自動化ツール(例:n8nのセルフホスト版)や、専用線で接続されたプライベートクラウドの利用を検討する必要があります。
厳格なデータローカライゼーション要件がある場合
一部の業界や地域では、データを特定の国や地域の外に持ち出してはならないという法的規制があります。Makeのサーバーがどこに設置されているか、データがどの経路で転送されるかは、公式ドキュメントで確認できますが、要件を完全に満たせない場合は利用を断念せざるを得ません。
社内にセキュリティレビュー体制がない場合
Makeは非常に柔軟なツールであるがゆえに、設定を誤ると簡単に情報漏洩につながります。小規模なチームでセキュリティ専任者がおらず、利用者任せになってしまう環境では、安全な運用を継続するのが難しくなります。まずは、社内で最低限のルールを決め、誰かが責任を持ってレビューできる体制を整えることが先決です。
連携先AIサービスのポリシーが許容できない場合
どうしてもChatGPTの個人向けプランの学習設定が気になる、あるいはClaudeのデータ保持期間が自社のポリシーに合わない、といった場合は、それらのAI連携を前提としたMakeの利用は見合わせるべきです。代替として、ローカルで動作するLLM(大規模言語モデル)をAPIで呼び出す構成などが考えられますが、いずれにしても技術的なハードルは上がります。
安全に使い続けるための確認事項(FAQ)
Q. Makeが入力データをAIの学習に使うことはありますか?
Make自体は、ユーザーのシナリオで処理されるデータを、自社のAIモデルの学習に使用することはありません。ただし、MakeのAI連携機能を使ってChatGPTやClaudeなどの外部AIサービスを呼び出す場合、それらのサービスが入力データを学習に利用する可能性があります。必ず連携先の利用規約とプライバシーポリシーを確認し、必要に応じてオプトアウト設定を行ってください。
Q. 無料プランでも業務利用は可能ですか?
無料プランは、機能やオペレーション数に制限があるだけでなく、セキュリティ面でも上位プランに劣ります。特に、実行ログの保持期間やデータの暗号化、サポート体制などを考慮すると、業務で機密情報を扱う場合は有料プラン(最低でもCoreプラン)の利用を強く推奨します。企業向けのTeamプランやEnterpriseプランでは、より高度なセキュリティ機能と管理機能が提供されます。
Q. シナリオの実行ログから機密情報を消すことはできますか?
Makeには、ログ出力を制限したり、特定のデータをマスキングしたりする機能が備わっています。シナリオの設定で、データ項目ごとに「ログに表示しない」オプションを有効にすることで、機密情報がログに残るのを防ぐことができます。また、企業向けプランでは、ログの保持期間を短く設定することも可能です。
Q. どうしてもクレジットカード情報を扱う自動化が必要な場合、どうすればいいですか?
Makeのシナリオ内で直接クレジットカード情報を扱うことは、セキュリティ上極めて危険であり、避けるべきです。代わりに、決済代行サービス(StripeやPayPalなど)が提供するトークン化の仕組みを利用し、Makeはトークンのみを扱うように設計します。また、決済情報を扱う部分は、PCI DSS準拠の専用環境で処理し、Makeとは必要最低限の連携にとどめるなど、アーキテクチャ全体での対策が必須です。
Q. 連携先のAIサービスのポリシーが変更された場合、どうやって気づけますか?
利用しているAIサービス(OpenAI、Anthropic、Googleなど)の公式ブログやドキュメントの変更履歴を定期的に確認するのが基本です。また、Makeのコミュニティフォーラムや、各AIサービスのユーザーグループなどで情報交換することも有効です。社内で複数のAIサービスを利用している場合は、それらのポリシー変更をウォッチする担当者を決め、変更があった際には速やかに社内のシナリオ設定を見直すプロセスを確立しておきましょう。
まとめ:正しい理解と線引きがMake AI活用の鍵
Makeは、正しく使えば業務効率を劇的に向上させる強力なツールです。しかし、データの扱いに関する不安を放置したまま使い始めるのは、非常に危険です。この記事で整理したように、重要なのは以下の3点です。
1. データの分類:扱う情報を「絶対に渡してはいけない」「注意して扱う」「比較的安全」に分け、明確な線引きをする。
2. 連携先AIの理解:Make自体ではなく、連携するAIサービスのポリシーがデータの学習利用を左右することを理解し、適切な設定を行う。
3. 組織的なルール化:個人の判断に任せず、社内ガイドラインやチェックリストを整備し、定期的な監査と教育を実施する。
これらの点を押さえ、常に公式の最新情報を参照しながら運用することで、Makeを安全かつ最大限に活用できるようになります。まずは小さなシナリオから始め、データの流れとセキュリティ設定に慣れていくことをお勧めします。

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